相続税の申告をすると、その1年後くらいに税務調査の調査官がくることがあります。
日本の1年間の死病者数約150万人に対して、税務調査があるのは約1万件で割合としては少ないです。ただし、調査官はあらかじめ対象の家族の資産状況を調べたうえで怪しい点を確認しに来ます。そのため、税務調査があれば80%以上で申告漏れが見つかっています。(参考:国税庁 相続税の調査等の状況)
この記事では、税務調査がどのようにされるのか、物語風に紹介します。
相続税の申告漏れと税務調査
プルルルル
「はい田中です。」
「初めまして、品川税務署の調査官、鈴木と申します。昨年は相続税の申告書をご提出くださりましてありがとうございました。お忙しいところ恐縮ですがこの申告書について税務調査に伺いたいのですが。」
「えっ、税務調査ですか。承知しました。では10月10日にお願いします。」
田中家に訪れた静かな朝、その穏やかさを破るかのように玄関のチャイムが鳴った。ドアを開けると、スーツ姿の調査官が立っていた。
「田中さんですね。本日は相続税の申告内容について、いくつか確認させていただきたく伺いました。」
田中は緊張しながらも調査官を応接室へ案内した。母も少し不安げな表情で隣に座る。
調査官は書類を広げながら口を開いた。

「まず、こちらの預金についてお聞きします。この口座は田中さんの名義ですね?」
「はい、私の名義です。」
「この口座ですが、お父様の銀行口座と印鑑がまったく同じです。」
「そうなんです。実は実際に預金をしていたのは父です。ただ、父は厳しくて、私は自由に使わせてもらえませんでした。」
調査官は頷きながらメモを取った。
「そうすると、これは名義預金ということになりますね。実際の管理者が故人であれば、相続財産として扱われます。」
田中は、しまった!答え方を間違えた、と心の中で思ったが、もう手遅れだった。
続いて、調査官は田中の母へ視線を向けた。
「奥様は結婚後、どのようなお仕事をされていましたか?」
「私はずっと専業主婦をしておりました。」
「ご自身の収入はなかったのでしょうか?」
「はい・・・。」
「ですが、奥様名義の預金が2千万円あります。これはどのように蓄えたものですか?」
母は少し戸惑いながら答えた。
「主人から時々もらっていたお金です。」
「いつ、いくらもらったか、記録はありますか? 贈与の証拠がなければ、相続財産として計算しなければなりません。」
母は言葉に詰まり、調査官の視線が鋭くなった。
さらに調査官は次の書類を取り出した。
「ご主人が亡くなる直前に、銀行口座から1千万円が引き出されています。何に使われたのでしょうか?」
「・・・葬儀費用などのために引き出しました。」
「全額使いましたか?」
「・・・500万円ほど残っています。」
「相続税の申告には含まれていませんね?」
「はい・・・」
調査官の表情がさらに厳しくなった。
「田中さん、貸金庫をお持ちですね?」
「ええ・・・」
「本日、午後に銀行で中を確認させてください。」
数時間後、銀行の貸金庫室で鍵が回される音が響いた。扉が開き、調査官の目の前に金の延べ棒が姿を現した。
「これは何ですか?」

田中は観念した。
「相続税の申告には含まれていませんね?」
「はい・・・」
調査官は静かに書類を閉じた。
「申告漏れがいくつか見つかりましたので、後日、修正申告をしていただきます。場合によっては追徴課税も発生します。」
田中と母は顔を見合わせ、深いため息をついた。相続税の申告は終わったと思っていたが、思わぬ落とし穴が待っていたのだった。