相続税の計算は複雑ですが、ひとつずつ対応すればだれでも相続税の申告は可能です。この記事では、相続税の計算方法をステップバイステップでわかりやすく説明します。
税理士に依頼すると相続財産の0.5~1.0%程度の税理士費用がかかります。税務署の人に相談するのにはお金はかかりません。税理士に頼らず、自分で税務署の人と相談して相続税の申告をするための情報を紹介します。
相続税の計算方法
相続税の計算方法をステップバイステップで説明します。
- 財産の集計
- 相続時精算課税適用財産の加算
- 債務の控除
- 葬儀費用の控除
- 生前贈与額の加算
- 基礎控除額の控除
- 相続税の総額の算出
- 各相続人の相続税額の計算
- 税額控除の適用
財産の集計

相続税の財産とは、相続開始日の財産です。ただし、株式や不動産など特殊な計算方法で算出するものもあります。
- 現金:そのままの金額。
- 預貯金:相続開始日の残高。定期預金は相続開始日に解約した場合の利息を加えた金額。
- 株式・投資信託:相続開始日の終値、その月の終値の平均、その前月の終値の平均、その前々月の終値の平均、のうち最も低い額。
- 土地:路線価がある場合は路線価に免責をかけて算出する。路線価がない場合は固定資産税評価額に所定の倍率をかけて算出する。算出された評価額は更地としての評価額なので、借地や賃貸をしている場合は一定の減額をする。また、小規模宅地の特例が適用される場合はさらに減額される。
- 建物:固定資産税評価額による。ただし、賃貸している建物は借地権割合として30%を控除する。
- 生命保険:受け取った生命保険金から、500万円×法定相続人の人数を控除した残高があればその金額。
- ゴルフ会員権:相続開始日の取引相場額の70%相当の金額。
- その他の財産:原則として相続開始日の時価。
相続時精算課税適用財産の加算
相続時精算課税の適用を受けていた財産がある場合は、その生前贈与の額を相続財産に加算します。
債務の控除
相続開始日に支払いが済んでいない債務は集計して相続財産から控除します。
債務とは借金のことですが、住宅ローン、死亡後に支払われた入院費、光熱費、電話料金、未納付の税金なども含まれます。
葬儀費用の控除
相続開始日に支払いが済んでいない葬儀費用は集計して相続財産から控除します。
葬儀費用には、葬儀や通夜の費用、読経料、戒名料が含まれます。ただし、初七日以降の法事の費用、香典返しの費用、墓地の購入代は含まれません。
生前贈与額の加算
相続開始前の7年以内に亡くなった人から生前贈与を受けていた場合、その贈与額を相続財産に加算します。
基礎控除額の控除
基礎控除額とは、3,000万円+600万円×法定相続人の数で計算される額です。
例えば、法定相続人が配偶者と子供2人の合計3人の場合の基礎控除額は、
- 3,000万円+600万円×3=4,800万円
になります。
相続財産から基礎控除額を差し引いて相続税を計算します。
相続税の総額の算出

「相続財産+相続時精算課税適用財産-債務-葬儀費用+直近7年以内の生前贈与額-基礎控除額」で算出された金額が、課税遺産総額です。この課税遺産総額を、法定相続分に応じて相続人ごとの計算上の取得財産額を算出します。※実際の分割割合とは関係なく、まず法定相続の割合に応じて相続税額を算出します。
例えば、課税遺産総額が3億円で、法定相続人が配偶者とこども2人の場合、
- 配偶者の法定相続分=3億円×1/2=1億5,000万円
- 子供の法定相続分=3億円×1/2×1/2=7,500万円(ひとりあたり)
となります。
そして、各相続人の相続税額は
- 配偶者の相続税額=1億5,000万円×40%-1,700万円=4,300万円
- 子供の相続税額=7,500万円×30%-700万円=1,550万円(ひとりあたり)
となるため、相続税の総額は
- 4,300万円+1,550万円×2=7,400万円
と計算されます。
法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
1,000万円以下 | 10% | - |
1,000万円超から3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
3,000万円超から5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
5,000万円超から1億円以下 | 30% | 700万円 |
1億円超から2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
2億円超から3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
3億円超から6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
6億円超 | 55% | 7,200万円 |
各相続人の相続税額の計算
前項で算出された相続税の総額は、各相続人が実際に相続する遺産の割合に応じて負担することになります。
例えば先ほどの例を使うと、課税遺産総額が3億円で、法定相続人が配偶者とこども2人の場合の相続税の総額は7,400万円でした。この相続人で、配偶者が80%、子供がひとりあたり10%を相続すると、
- 配偶者に割り振られる相続税額=7,400万円×80%=5,920万円
- 子供に割り振られる相続税額=7,400万円×10%=740万円(ひとりあたり)
となります。
なお、相続人が亡くなった人の一親等の血族および配偶者以外の場合、その相続人の相続税額は20%増額されます。
税額控除の適用
各相続人に割り振られる相続税額から、さらに相続人の状況に合わせて各種控除があります。相続税の税額控除の控除する順番は下記の順で控除します。控除している途中でゼロになった場合、それ以上マイナスになることはありません。すなわち還付は受けられません。
- 贈与税額控除:相続する財産のうち、直近7年間の贈与について贈与税を支払った場合に、その前払いした贈与税を相続税から控除できます。
- 配偶者の税額の軽減:配偶者に割り振られる相続税額から、課税遺産総額の半分または1億6,000万円のいずれか多い金額までを控除できます。(参考:国税庁 No.4158 配偶者の税額の軽減)
- 未成年者控除:相続人の中に未成年者がいる場合にその未成年者の相続税額から一定の金額を控除できます。(参考:国税庁 No.4164 未成年者の税額控除)
- 障碍者控除:相続人の中に障害者がいる場合にその障害者の相続税額から一定の金額を控除できます。
- 相次相続控除:今回の相続の前10年間で、今回亡くなった人が相続税を支払っていた場合に、一定の税額控除ができます。(参考:国税庁 No.4168 相次相続控除)
- 外国税額控除:亡くなった人の財産が外国にあって、その財産について外国で相続税がかかった場合に一定の控除ができます。(参考:国税庁 No.1240 居住者に係る外国税額控除)
相続税の計算方法の具体例
ケース1 相続人が配偶者と子供2人
課税遺産総額が3億円、相続人が配偶者と子供2人、遺産分割割合が配偶者:子供1:子供2=80:10:10の場合
相続人の法定相続分の算出
- 配偶者の法定相続分=3億円×1/2=1億5,000万円
- 子供の法定相続分=3億円×1/2×1/2=7,500万円(ひとりあたり)
各相続人の法定相続分の相続税額の算出
- 配偶者の相続税額=1億5,000万円×40%-1,700万円=4,300万円
- 子供の相続税額=7,500万円×30%-700万円=1,550万円(ひとりあたり)
相続税の総額の算出
- 4,300万円+1,550万円×2=7,400万円
実際の各相続人の相続税額の算出
- 配偶者の相続税額=7,400万円×80%-5,920万円(配偶者の税額の軽減)=ゼロ
- 子供の相続税額=7,400万円×10%=740万円(ひとりあたり)

配偶者へ相続する割合を増やして配偶者の税額の軽減を利用すれば、相続税はかなり抑えることができます!
ケース2 相続人が子供3人
課税遺産総額が3億円、相続人が子供3人、遺産分割割合が子供1:子供2:子供3=50:30:20の場合
相続人の法定相続分の算出
- 子供の法定相続分=3億円×1/3=1億円(ひとりあたり)
各相続人の法定相続分の相続税額の算出
- 子供の相続税額=1億円×30%-700万円=2,300万円(ひとりあたり)
相続税の総額の算出
- 2,300万円×3=6,900万円
実際の各相続人の相続税額の算出
- 子供1の相続税額=6,900万円×50%=3,450万円
- 子供2の相続税額=6,900万円×30%=2,070万円
- 子供3の相続税額=6,900万円×20%=1,380万円

配偶者の税額の軽減が利用できない場合の相続税は高くなっちゃうね・・・