アノマリーとは、株式市場における季節による規則性のことです。理論的な根拠がないとも言われていますが、繰り返し現れる規則性には何らかの原因や理由があるはずです。
例えば「Sell in May(株は5月に売れ)」という相場の格言を聞いたことがある人は多いのではないでしょうか。これは、毎年5月から10月ごろまで株が上がりにくい時期が続く傾向があることを表すアノマリーです。
この記事では、季節性のアノマリーと、その原因と理由について説明します。アノマリーは毎年必ず実現するわけではありませんが、人々の1年の行事が投資行動に反映された結果としてアノマリーが発生しています。偶然として無視するのではなく、意識して利用する価値があります。
S&P500の月別騰落率
1945年以降のS&P500の月別騰落率をまとめました。5月から9月にかけて低調な月が続き、10月から4月にかけて好調な月が続いていることがわかります。
アノマリーがないとすれば、統計的に毎月同程度の騰落率になるはずなので、この騰落率のばらつきには何かの原因があると考えられます。

日経平均の月別騰落率
1949年以降の日経平均の月別騰落率をまとめました。世界の株はある程度連動しているため、日経平均でもS&P500と同様の傾向がみられます。特に5月から9月のパフォーマンスが悪いところや、なかでも9月が最悪な月であるところが共通しています。

1月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:1.08%
- 年間ランキング:6位
1月相場がその年の相場を占う
1月にS&P500が上昇した年は、年間でもS&P500が上昇するというアノマリーです。実際、1950年以降の73年間で1月にS&P500が上昇した年は43回あり、そのうち88%の39回は年間でもS&P500が上昇しました。
反転
10~12月までの流れが1月に反転するアノマリーがあります。代表的な例が、1987年10月に始まったブラックマンデー相場が1988年1月から急反発したこと、1989年12月末に日経平均がバブルの最高値をつけて1990年1月から急落したこと、1999年12月までITバブル相場でIT関連株が急騰したが2000年1月からIT関連株が急落したことなどです。
これは、年内に済ましてしまおうという人間心理の影響で、強気相場の年はみんなが年内に買ってしまい、その結果1月には新たな買い手がいなくなって下がるために相場の反転が発生します。逆に弱気相場の年は年内にみんなが売ってしまうため、1月からは売り手がいなくなり上がります。
新興株や中小型株が上がる
アメリカの機関投資家やヘッジファンドは12月が決算です。決算でのポートフォリオは誰にでも説明しやすい大型優良株にしておきますが、決算後は機関投資家やヘッジファンドが伸びると見込んだ新興株や中小型株に資金を振り向けるため、新興株や中小型株が上がりやすくなります。
2月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:-0.15%
- 年間ランキング:11位
1年で2番目に悪い月
2月は業績下方修正と税金対策で株が下がります。
アメリカ株式市場では、企業は第3四半期の決算シーズンで翌年の業績見通しに対して強気の予想を示す一方で、第4四半期では一転して現実的な予想を示し、業績見通しが下方修正される傾向があります。そのため、2月は失望売りが出やすくなります。
また、アメリカの投資家は4月の確定申告に備えてまとまったお金を用意しなければなりません。そのため2月に株を売って現金にする動きがみられます。特に、前年のパフォーマンスがよかった場合は2月に株安になりやすいです。
3月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:1.17%
- 年間ランキング:5位
相場が底打ちしやすい

3月は相場の転換が起こりやすい月として知られています。2020年のコロナショックは3月に底打ち、2008年のリーマンショックも2009年の3月に底打ち、2000年のドットコムバブルは2003年の3月に底打ちしました。
これは、第4四半期の決算シーズンが終盤戦を迎えるほか、新年度のガイダンスが発表される関係で、機関投資家のポートフォリオ調整が活発化し、相場の風向きが変わりやすいからだと言われています。
4月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:1.48%
- 年間ランキング:3位
1年で3番目に良い月
Sell in May前の最後の月。4月までは株を売らずに持っておきたい。
5月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:0.36%
- 年間ランキング:8位
Sell in May

「Sell in May and go away, don‘t come back until St. Leger Day(5月に売り抜けて9月までは相場に戻ってくるな)」という有名な格言があります。セントレジャー・デーとは、毎年9月の第2土曜日にイギリスで行われる競馬の大レースの開催日のことです。
アメリカでは確定申告の税還付が毎年1月末頃から5月にかけてあります。その資金の一部が株式市場に流入するので4月までは株を買い続けることができますが、5月からは税還付の流入資金がなくなり株を買う人が減るため、5月は株価が下がりやすいです。
6月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:0.15%
- 年間ランキング:9位
夏季休暇
アメリカでは夏のドライブシーズンが本格化して原油価格が上昇しやすくなり、そのうえ株式市場への参加者が減って相場の下落が続きやすいです。
7月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:1.21%
- 年間ランキング:4位
サマーラリー
7月は下半期の最初の月です。そのため年金基金から新たな資金が入ってきます。また、夏季休暇で株式市場への参加者が減って出来高が少ないため、株高になりやすい条件がそろっています。
8月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:-0.04%
- 年間ランキング:10位
夏枯れ
8月は1年のうち3番目に悪い月です。8月に株価が低調なことは、夏枯れと呼ばれています。6月以来相場の出来高は少ない状態が続くうえ、7月のように新規資金が入ってくることもないため、悪いニュースが出ると株安が長引く傾向があります。
9月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:-0.76%
- 年間ランキング:12位
暗黒の9月相場
9月は1年で1番悪い月です。
アメリカでは9月に新学期を迎えるため、機関投資家が夏季休暇から職場に戻ってきます。9月から一斉に仕事を始めるため、IPOや公募増資などたくさんのディールが集中する傾向があります。既存の株を売ってIPOや公募増資に資金を回すため、相場が崩れやすくなります。
また、9月は第3四半期の最後の月のため、機関投資家は含み損を抱えている株の処分をします。
日本でも9月の騰落率は低く、彼岸底と言われます。
10月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:1.04%
- 年間ランキング:7位
10月恐怖症
1929年の世界恐慌、1987年のブラックマンデー、2008年のリーマンショックなど、世界的な金融危機が10月に起こってきたため、投資家に嫌なイメージがついています。
しかし、11月から最高の6か月が始まることを考えると、10月の株安は絶好の買い場と言えます。
ハロウィン効果

10月末から6か月ほど株が上がりやすい時期が続くことをハロウィン効果と言います。この時期に買って4月まで持っていることで大きな利益が得られます。
11月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:1.56%
- 年間ランキング:2位
最高の6か月のはじまり
過去の実績から、10月~11月は1年で最高の6か月が始まる月です。ハロウィン効果とほぼ同じですが、この時期に買って4月まで持っていることで大きな利益が得られます。
タックスロスセリング
11月後半から12月の前半は、タックスロスセリングが発生します。タックスロスセリングは、損益通算のため含み損の株を売却することです。そのため、その年に株価を下げた銘柄は下落が加速することがあります。
12月のアノマリー
- S&P500の月別騰落率:1.58%
- 年間ランキング:1位
サンタクロースラリー

タックスロスセリングの終わった12月後半はボーナスシーズンで、個人投資家はクリスマスが終わった後に残ったお金で株を買う傾向があるため、株高になる傾向があります。
まとめ
この記事では、季節性のアノマリーと、その原因について説明しました。アノマリーは毎年必ず実現するわけではありませんが、人々の1年の行事が投資行動に反映された結果としてアノマリーが発生しています。偶然として無視するのではなく、意識して利用する価値があります。